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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)130号 判決

審決の取消事由の存否について検討する。

1 構成上の相違点の主張について

(一)(受信部に関する点について)

当事者間に争いのない本願発明の要旨(特許請求の範囲)によると、特定発明における受信部は、それ自体の具体的構成が特許請求の範囲に規定されておらず、ただ、起動部体との関係において「配列信号を感知する受信部……を備えた起動部体」と規定され、受信部が起動部体に「備えた」ものであることを要件とされているにとどまり、その備え方についても特段の限定がされていない。したがつて、その備え方として、受信部を直接起動部体に備える場合のほか、他の部材を介在させて間接的に起動部体に備える場合が考えられるところ、特許請求の範囲の記載によれば、右いずれの場合もこれに包含されるものといいうべく、他にこれを妨げるものもないから、特定発明における受信部は、起動部体と一体のものに限られるとは解されない。また、原告は、起動部体は、受信部及び係合部を備えた単体であるとも主張するが、特許請求の範囲にはこのような限定はなく、右に述べたところからしても、そのように限定して解するのは相当でない。

成立に争いのない甲第二号証によると、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載の受信突起9が受信部に、係合突起8が係合部にそれぞれ相当し、この両者が起動部体7に一体的に備えられていることが認められるが、右明細書・図面を検討しても、このようなものに限定される趣旨の記載は見当らず、前記特許請求の範囲の記載と併せ考えると、右受信突起9は特定発明における受信部の一実施例とみるのほかはない。しかも、前掲甲第二号証、特に特定発明の特許請求の範囲の記載とによると、同特許請求の範囲には、「配列信号を感知する受信部」と記載されており、これは配列信号を受信する部分の他に配列信号を感知する部分を包含するものと解すべきであり、また、その実施例におけるピン11´、伝達片11は、表示体上の配列信号を感知する部分であり、受信突起9は受信する部分に相当するから、特定発明の受信部には、受信突起9の他にピン11´、及び伝達片11を包含しているものというべきである。したがつて、このような点からしても、特定発明における受信部は起動部体と常に一体のものであるということはできない。

ところで、審決は、特定発明の受信部は、引用例における板ばね接点組立体86、88、電磁石17及び接極子19よりなる構成と一致すると認定しているところ、成立に争いのない甲第三号証によると、引用例における右の構成は、円筒形絶縁ユニツト(型板)80の周辺面上の点状電気接点81の配列信号を感知し案内棒20に伝達するものであるから、特定発明における配列信号を感知しこれを伝達する受信部に相当するものである。そして、特定発明における受信部は、前述のとおり起動部体に間接的に備えられたものをも包含するから、審決が受信部についてした認定に誤りはなく、この点の原告の主張は失当である。

(二)(選針部体に関する点について)

当事者間に争いのない特定発明の特許請求の範囲によると、特定発明は、起動部体が受信部と係合部とを備えており、この係合部が配列信号を受信部により感知することによつて変位し、この変位した起動部体の係合部を介して選針部体が起動する構成となつている。そして、この起動部体と選針部体との間にあつて両者の働きを仲介するところの係合部の機能についてみると、前掲甲第二号証(本願発明の明細書及び図面)の記載、特に発明の詳細な説明中の「移動体1の移動により回転体3が第四図矢印方向に回転すると、各起動部体7は、表示体10の表示する配列信号に応じ適宜出入している伝達片11にその受信突起9を押下させるものとさせないものとがあり、受信突起9が押下されて下降位置に達した起動部体7の係合突起8は歯車16´を回転させる……」との記載によると、起動部体に備えられた係合部は、配列信号により選針部体に係わつて選針作用をする場合と、このように選針部体に係わらず、したがつて、選針作用をしない場合とがあり、選針作用をしない場合には、係合部は選針部体に係合しないことが認められる。

ところで、まず係合部という場合の「係合」の意味についてみるに、「係合」とは一般に文字通り「かかわり合うこと」にほかならず、ことに本件の場合、例えば、「結合」とは異なり、この種機械関係分野にあつては、二者の間に特定の関連ないし作用を生じさせたりこのような関連ないし作用を解除したりするような相関関係のある場合をいい、二者の間に離間することのない密接不可分な関係がある「結合」のような場合とは異なるものと解するのが自然である。しかも、前記の特許請求の範囲をみると、起動部体と選針部体とは、並列的な構成要件として各別に記載されているのである。

右に述べた係合部の有する機能、「係合」の用語法及び特許請求の範囲の記載形式などを併せ考えると、特定発明における係合部は、選針部体と一体的に結合しているものではなく、両者は別体のものであると解するのが相当であり、本願発明の明細書や図面を検討してもこのように解すべきでない特段の事情は見当らない。(なるほど、特定発明における特許請求の範囲には、被告の主張するとおり起動部体と選針部体とが別体である旨を直接明示的に記載してはいないけれども、このことは、既に検討したところに徴し、右判断を左右するものではない。)被告は、特定発明の起動部体と選針部体とが別体であるとしても、引用例のものにおける案内棒の上半部と下半部とは、駆動ピンを有する角形部を介して連結しているから、別体とみることができる旨主張する。

しかし、前掲甲第三号証によると、引用例には案内棒20の加工については何の記載もないが、右案内棒の構造、形状からみても、むしろ一本の棒から造られていると解するのが自然であり、しかも、案内棒自体は、一本の棒状部材であつて、上半部と下半部が別々に作動するものではなく、「案内棒」との名称からも明らかなように、編針のバツトを所定の通路に案内する機能を有するものであつて、特定発明における選針部体に相当するものであること及びこの案内棒は、配列信号の受信部の一部である接極子19によつて、まず準備位置に押下げられ、回転子の回転によつて案内溝による案内により選針作動位置に押下げられるものであることが認められる。したがつて、引用例における案内棒は、作動の前半においては特定発明における起動部体と類似した働きをするが、その上半部と下半部とが別々の機能を有するものではなく、全体が一体として作動するものであるから、特定発明の起動部体と類似した機能をも兼ね備えた選針部体とみるのが相当であつて、特定発明における起動部体そのものに相当するものは引用例には存在しないものというべきであり、現にその名称も右のとおり上半部及び下半部を通じて案内棒と指称されているのである。以上の諸点からすれば、被告の右主張は失当である。

そうしてみると、審決が引用例のものにおける案内棒の上半部及び下半部が特定発明の起動部体及び選針部体にそれぞれ対応一致すると認定した点は誤つているというべきである。

(三)(係合部に関する点について)

引用例における案内棒20は、前述のとおり一体のものであり、また、その角形部も、選針部体と係合したり係合しなかつたりするものではなく、前掲甲第三号証によれば、それは駆動ピン23を固定するために設けられたものであり、同号証を検討しても、その他に係合部に相当する構成は認められず、結局、引用例には特定発明の係合部に相当するものは存在しないというべきである。

ところで、審決は、係合部に関し、特定発明における起動部体は、選針部体に作用する係合部を備えた構成であるが、案内棒の上半部は、その下半部と一体化されているから係合したものと同一の機能を生ずるものであり、特定発明の起動部体と引用例のものにおける案内棒とは構成が同一であると認定しているが、既に検討したとおり、結合して一体化しているものと係合関係にあるものとは同一の機能を有しているとはいえず、また、引用例のものには、特定発明における係合部に相当するものは存在しないから、右審決の認定は誤りである。被告のこの点について主張するところも、引用例のものに係合部が存在し、前記角形部がこれに相当することを前提とするものであるから、失当というほかはない。

(四)(復帰部材に関する点について)

当事者間に争いのない本願発明の要旨(特許請求の範囲)によると、特定発明の復帰部材については、特許請求の範囲中に、「変位された起動部体を旧位置に復帰せしめる復帰部材」とのみ記載されているにとどまり選針部体の復帰については直接の記載はないが、特定発明は、起動部体と選針部体とは係合部の係脱により作動し合う関係にあり、このような関係を構成要素とするものであることは、既に認定したところである。したがつて、特定発明にあつては、このような係合部の構成からして、選針部体は、起動部体の復帰に伴つて当然に追従するものではないと解すべきである。これに対し、引用例のものは、同所に認定したとおり、案内棒20の上半部と下半部とは全体が一体として作用するものである。

ところで、審決は、特定発明の復帰部材が引用例のものにおける案内棒を復帰させるコイルばね21及び案内溝24の上昇溝部分の構成と対応一致する旨認定しているが引用例の案内棒は、前述のとおり特定発明における起動部体に類似した働きをするが、選針部体に相当するものであつて、引用例のコイルばね及び案内溝の上昇部分は、この選針部体に相当する案内棒を旧位置に復帰させるものであるから、起動部体そのものを復帰させるためのものとは認め難い。

そうすると、審決が特定発明における「変位された起動部体を旧位置に復帰せしめる復帰部材」と引用例のものにおけるコイルばね21及び案内棒24の上昇溝部分に対応し、両者の構成は同一であるとした点は誤つているというべきである。

被告はこの点について、特定発明は、特許請求の範囲に照らし、起動部体を旧位置に復帰させたとき選針部体が復帰しないとは限定されていないから、起動部体と不作用状態のもとにおいて一緒に復帰するような構成の選針部体を包含するものであり、引用例のものは、起動部体と不作用状態のもとに選針部体が一緒に復帰するものであるから、特定発明には引用例のものも包含され、特定発明の復帰部材と引用例のコイルバネ及び案内溝24の上昇溝部分より構成される復帰部材とは同一である旨の主張をする。しかし、既に述べたとおり、引用例のものには、特定発明における起動部体そのものに相当する構成部分(部材)は存在せず、コイルバネと案内溝の上昇溝部分は選針部体を復帰させるものである。したがつて、被告の右主張は、引用例のものに特定発明における起動部体に当たるものが存在することを前提とするものであるから、採用できない。

2 以上検討したところから明らかなとおり、特定発明と引用例のものとの間には、1の(二)ないし(四)に説述したとおりの構成上の差異がある。ところで、両者にこのような構成上の差異がある以上、これら構成上の差異に基づいて、作用、効果の点においても相応の差異を生ずることは、この種機械技術分野において当然のところである。この点については更に詳論するまでもなく、特定発明が引用例のものと同一の発明であるとした審決の判断は誤つており、これは、審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。

そして、特定発明について審決に右のとおりの誤りがある以上、併合発明に係る審決の判断についても同断であることは、冒頭掲記の当事者間に争いのない事実に徴し明らかであるから、審決は、違法として取消を免れない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編注〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

(1) 特許請求の範囲第一番目に記載の発明

編針を列装した針床上を移動する移動体に、編針の配列信号を多段に亘つて表示した表示体、前記配列信号を感知する受信部及び後記選針部体に作用する係合部を備えた起動部体、上記受信部の信号感知によつて変位された起動部体により起動されて編針を変位せしめ所要の配列にする選針部体、及び変位された起動部体を旧位置に復帰せしめる復帰部材を装備したことを特徴とする編機の選針装置。

(2) 特許請求の範囲第二番目に記載の発明

編針を列装した針床上を移動する移動体に、編針の配列信号を表示した表示体、移動体の移動にしたがつて回転する回転体、該回転体に装備され前記配列信号を感知する受信部及び後記選針部体に作用する係合部を備えた起動部体、上記回転体の回転中に上記受信部の信号感知によつて変位された起動部体により起動されて編針を変位させて所要の配列にする選針部体、及び選針部体を起動した後において上記の変位している起動部体を旧位置に復帰せしめて再度表示体の配列信号を感知すべき準備位置に揃列させる復帰部材を装備したことを特徴とする編機の選針装置。

(3) 特許請求の範囲第三番目に記載の発明

編針を列装した針床上を移動する移動体に、編針の配列信号を表示した表示体、復帰部材、前記配列信号を感知する受信部及び後記選針部体に作用する係合部を備え、上記受信部の信号感知によつて変位し、かつ、上記復帰部材により表示体の配列信号を感知すべき準備位置に再度復帰する起動部体を二個以上装備して移動体の移動方向が反転する度に回転方向が逆転する回転体、該回転体の一方向への回転中に前記起動部体に起動されるが他方向への回転中には起動部体が準備位置に復帰していることにより起動されない左右各一個の選針部体を装備したことを特徴とする編機の選針装置。

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